2年以内に欧州へ。トーロに今必要なのは「結果」
主力の残留とクラブのビジョン
トリノというクラブは、ユヴェントスやミラン、インテルといったいわゆる「強豪クラブ」ではない。スポンサー各社から受け取るカネもそれほど多くはない。自前のスタジアムも持っていなければ、アタランタのように、プリマヴェーラから次から次に即戦力として計算可能な若手が湧いてくるチームでもない。そんなクラブが強くなる近道はただ一つ。「若い才能を安く買って、数年後に高く売る」こと。これを繰り返すことによって資金を貯め、少しずつスカッドを強くしていく方法だ。
ウルバーノ・カイロ現会長が2005年にクラブを買収して以来、トリノは現にそれを実践してきた。
※ここでは収支に年俸は含まないものとする
2013年
アンジェロ・オグボンナ(収支:+1500万ユーロ)
2014年
アレッシオ・チェルチ(収支:+720万ユーロ)
獲得時:680万ユーロ(2013年、フィオレンティーナより) → アトレティコ・マドリー 1400万ユーロ
チーロ・インモービレ(収支:+775万ユーロ)
獲得時:1075万ユーロ(2012年と2014年、それぞれジェノアとユヴェントスより。共同保有のため) → ドルトムント 1850万ユーロ
2015年
マッテオ・ダルミアン(収支:+1567万ユーロ)
獲得時:233万ユーロ(2012年、パレルモより) → マンチェスター・ユナイテッド 1800万ユーロ
2016年
カミル・グリク(収支:+865万ユーロ)
獲得時:235万ユーロ(2011年、パレルモより) → モナコ 1100万ユーロ
2017年
ブルーノ・ペレス(収支:+1050万ユーロ)
獲得時:200万ユーロ(2014年、サントスより) → ローマ 1250万ユーロ(買取義務発動)
ニコラ・マクシモヴィッチ(収支:+2200万ユーロ)
獲得時:300万ユーロ(2013年、レッドスターより) → ナポリ 2500万ユーロ(買取義務発動)
ダヴィデ・ザッパコスタ(収支:+2070万ユーロ)
上には主なものしか挙げなかったが、これまでカイロはクラブに有益だと判断した場合は主力選手を手放すことを厭わないオーナーであったことが分かる。選手本人がステップアップを望み移籍を直訴したケースもあり全部がそうだとは言えないが、カイロが他クラブからのいわゆる「断れないオファー」を断ってきたことはあまり無かった。
しかしご存知の通り、この人はまだトーロの選手である。
昨夏のメルカートで国内外のメガクラブが獲得に動き8000万ユーロもの額のオファーが実際に届きながらも、クラブはアンドレア・ベロッティの放出を断固として拒否。本人が移籍を望まなかったのもあるが、これまでのトリノなら確実に換金していたところである。
さらに今夏、トリノはベロッティ同様に人気銘柄だったイアゴ・ファルケやダニエレ・バゼッリを売らず(アデム・リャイッチをあのような金額で売ったことは到底納得できないが)、ロベルト・ソリアーノやシモーネ・ザザなど、年齢的に将来的なプラス収支での換金が見込めない、既にピークを迎えた選手を獲得している。昨夏もクリスティアン・アンサルディにトマス・リンコンと、「アラサー選手」たちをそれほど安くない金額で購入した。これらが何を意味するか。
ー今後2年間に重点を置き、ヨーロッパリーグへの出場・定着を達成するー。
このために、クラブの方針も少しずつシフトチェンジしてきている。カイロは、主力の売却によって貯めてきたキャピタルゲインを、少しずつ出し惜しみせずに使い始めているのだ。上記のミッションについては、現にカイロ本人の口からも何度も強調されている。
今季のトリノのスカッドは、近年でも最強だろう。ワルテル・マッツァーリをはじめとするコーチ陣も含め、各々が本来の力を出せれば、欧州の舞台も少しずつ見えてくるポテンシャルはある。「焦らずゆっくりと」は既に終わった。今必要なのは結果だ。答え合わせをするなら、昨季シニシャ・ミハイロヴィッチを解任したのもそこに理由がある。
武器は揃った。舞台も整った。あとは己の力を信じ、上だけを見ながら突き進んでいかなければならない。今のところ、クラブがチームに残したベロッティやバゼッリも、その期待に応えるプレーを見せているとは言い難い。しかし、彼らはトーロが欧州に行くためのプロジェクトの一部なのだ。いや、何もこの2人に限った話ではない。チーム全体として、トーロは蕾から花へと昇華しなければならない時期を迎えている。言い訳は必要ない。今こそトーロ(雄牛)の強さを見せる時だ。