【メルカート閉幕】波乱万丈の3ヶ月を振り返ろう
9月2日を迎え夏の移籍市場も閉幕。各チームが22/23シーズンの陣容を確定させたわけだが、我らがトリノの市場はここ数年で最も騒がしいものになったと言って差し支えないだろう。という事で久々の更新となった今回は時系列順に今夏の出来事をダイジェストで振り返っていく。
【5月】 主力選手2名の買取オプション行使期限が満了。市場開幕に向け暗雲が立ち込める
昨夏買取オプション付ローンで複数名の選手を獲得していたトリノだが、クラブが買取の意思を見せていたのは主力として活躍していたヨシップ・ブレカロ、デニス・プラート、ロランド・マンドラーゴラの3名。まずブレカロに関してトリノは€1000万での買取オプションを有していたが、ブレカロ本人が「チャンピオンズリーグに出たい」としてトリノ残留を拒否。ヴァニャーティと代理人を交えての話し合いも行われたが状況は変わらず、本人の意思を尊重しクラブは返却を決めるという結末に。続いてプラートについては€1500万の買取オプションが存在したが、負傷離脱の多かった彼にこの金額を支払う事に対しクラブは躊躇。保有元のレスターにローン延長を含む値引き交渉を持ちかけるも交渉は平行線を辿り、彼もまたローンバックされる事となった。
【6月】キャプテンと次期キャプテン候補も退団が決定。主力の流出は止まらない
キャプテンのアンドレア・ベロッティに対しクラブは契約延長を諦めなかったが、ステップアップを決意していた彼の意思は最後まで変わらなかった。退団するとしてもクラブに7年に渡り多大な貢献を果たしてきた彼は本来拍手とともに温かく送り出されるはずだったが、一言の挨拶もなく契約満了の日を迎えた彼にティフォージは激怒。主力の流出が相次ぐクラブにまた一つネガティブな話題を残す事となった。そしてここに追い打ちをかけるように次期キャプテン候補の筆頭であった前述のマンドラーゴラも退団が決定。買取オプションの値引きに向けて交渉が続けられてきたが、最終的にトリノ退団を決めたのは彼自身だった事が後にヴァニャーティの口から語られている。
【7月】守備の要が宿敵に移籍。ついにSDと監督が大喧嘩
7月に入りトリノはようやく最初の補強を決める。セリエCのカタンザーロからブライアン・バイェイェ、そしてマルセイユからネマニャ・ラドニッチを獲得し、補強ポイントだったウイングバックとトレクァルティスタに待望の新戦力を加えた。しかしベンフィカやマルセイユで結果を残せていないラドニッチの加入はこの時点で期待値としてはかなり低く、バイェイェに至ってはセリエAでのプレー経験なし。2人の加入はネガティブなクラブ状況を照らすものにはならなかった。そしてステップアップが有力と目されてきたグレイソン・ブレーメルの退団もついに決まる。ただ行き先は長らく報じられてきたインテルではなく、宿敵ユヴェントスに移籍する事に。分割払いとはいえ€4000万以上の移籍金にトリノは首を縦に振った格好だったが、この取引もティフォージの不満を大きく煽るものとなった。
そうして迎えた7月28日、事件は起きる。キャンプ地のオーストリアでヴァニャーティとユリッチが掴み合い&怒鳴り合いの大喧嘩を繰り広げている動画がネットに流出したのだ。何者かによって撮影されたこの喧嘩の原因は補強プランの方向性の不一致であり、ヴァニャーティがジェイソン・デナイエル、ジュリオ・マッジョーレ、フィリップ・ジュリチッチの獲得取引をまとめ上げユリッチに報告したところ「全員要らない」と拒否された事がヴァニャーティの怒りに火を付けたとされている。しかし後日、ユリッチはあの事件について後日記者会見にて次のようにコメントした。
あの喧嘩は私がわざとヴァニャーティを煽って起こしたもの。彼が本当にクラブを思って仕事をしているのかどうか本心が知りたかった。彼はこれまで私に対してあまり感情を表に出さない男だったからね。しかし私が望んだ通り、彼は怒りを剥き出しにして向かってきてくれた。クラブを本気で思っているからこその感情だ。とても嬉しかったよ
ユリッチのこの告白に対しティフォージはドン引き。「俺たちの監督はサイコパスだ!(汗)」と我々を混乱の渦に巻き込んだが、終わってみればこの事件が移籍市場における重要なターニングポイントとなった事実をティフォージは目の当たりにする事となる。
【8月】大喧嘩をキッカケに怒涛の巻き返し。雨降って地固まる
指揮官との大喧嘩でプライドに火が付いたヴァニャーティの奮闘により、8月に入ってすぐトリノはインテルからヴァレンティーノ・ラザーロを迎え入れる。続いてトルコの超新星エミルハン・イルカンをベシクタシュから獲得、さらにその翌日にはアタランタからアレクセイ・ミランチュク、ウエストハムからニコラ・ヴラシッチを獲得するという怒涛の追い上げ。さらにその1週間後には新たな守備リーダー候補としてペル・スフールスをアヤックスから迎え入れることに成功した。あの"事件"からわずか2週間、奮い立ったヴァニャーティの本気によりスカッドは大幅なレベルアップを遂げたのである。
しかしカンピオナート開幕直前にも事件が発生。サシャ・ルキッチが練習をボイコットし退団が囁かれ始めたのだ。ただクラブと契約延長交渉の件で一時的に揉めていただけだった事が分かり、謝罪とともにチームに復帰。懲罰としてキャプテンマークをリカルド・ロドリゲスに譲ったがクラブとの契約延長交渉も既に再開されており、今のところ問題はない状況だ。
【9月】メルカート閉幕。最終日は余剰人員の放出作業もほぼ完了
メルカート終盤、9月に入りトリノは戦力外となっていたシモーネ・ザザとの契約を解除。市場最終日には同じく構想外のシモーネ・ヴェルディをヴェローナへ、アルマンド・イッツォをモンツァへと放出。戦力外選手のうち残念ながらシモーネ・エデラのみ新天地が決まらなかったが、高給取りだった3名の放出によりトリノは年俸総額から人件費を約€500万ほど節減する事に成功している。また、最後の新戦力としてパルマからヤン・カラモーを獲得しメルカートを締め括った。
成立した主な移籍
INGK
エトリト・ベリシャ ← SPAL(買取義務発動。移籍金€30万)
DF
ブライアン・バイェイェ ← カタンザーロ(完全移籍。移籍金€75万)
ペル・スフールス ← アヤックス(完全移籍。移籍金€900万+ボーナス€300万)
MF
エミルハン・イルカン ← ベシクタシュ(完全移籍。移籍金€450万)
ニコラ・ヴラシッチ ← ウエストハム(買取オプション付ローン。オプション€1500万)
ヴァレンティーノ・ラザーロ ← インテル(買取オプション付ローン。オプション€600万)
ミシェル・アドーポ ← ヴィテルベーゼ(ローンバック)
サムエレ・リッチ ← エンポリ(買取義務発動。移籍金€900万)
アレクセイ・ミランチュク ← アタランタ(買取オプション付ローン。オプション€1200万)
FW
ヤン・カラモー ← パルマ(完全移籍。移籍金不明)
ピエトロ・ペッレグリ ← モナコ(買取オプション行使。移籍金€450万)
ネマニャ・ラドニッチ ← マルセイユ(買取義務付ローン。移籍金€200万)
OUT
DF
グレイソン・ブレーメル → ユヴェントス(完全移籍。移籍金€4100万+ボーナス€800万)
クリスティアン・アンサルディ → 契約満了(その後パルマに移籍)
MF
トンマーゾ・ポベガ → ミラン(ローンバック)
ヤコポ・セグレ → パレルモ(完全移籍。移籍金€50万)
クリストファー・ホルヴァート → デブレツェニ(ドライローン)
デニス・プラート → レスター(ローンバック)
ベン・ラシヌ・コネ → フロジノーネ(買取オプション付ローン。買戻しオプション付帯。金額不明)
ロランド・マンドラーゴラ → ユヴェントス(ローンバック。その後フィオレンティーナに移籍)
FW
シモーネ・ザザ → 契約解除
アンドレア・ベロッティ → 契約満了(その後ローマに移籍)
マルコ・ピアツァ → ユヴェントス(ローンバック。その後エンポリに移籍)
ヨシップ・ブレカロ → ヴォルフスブルク(ローンバック)
ヴィンチェンツォ・ミリコ → カリアリ(完全移籍。移籍金不明)
シモーネ・ヴェルディ → ヴェローナ(買取オプション付ローン。オプション€500万。一定条件達成で買取義務化)
マグナス・ワルミング → ダルムシュタット(買取オプション付ローン。買戻しオプション付帯。金額不明)
気持ち的に浮き沈みの激しすぎるオフシーズンを過ごしたトリノだったが、最終的にはある程度戦えるスカッドを手に入れた。デビュー戦でいきなり得点を挙げたミランチュクは負傷で1ヶ月の戦線離脱が決まってしまったが、スフールスやヴラシッチは期待通りのプレーぶり。既にティフォージの心を掴んでいる。さらには期待値の低かったラドニッチも攻撃の中核を担う素晴らしいパフォーマンスを見せポジティブな驚きを提供するなど好材料は多い。試合を追うごとにユリッチのサッカーが新戦力たちにも浸透しており、昨季よりサッカーの質も高い。チームにかかる現時点での期待度は昨年よりも大きいと言えるだろう。昨年より一つでも上の順位でフィニッシュ、あわよくば欧州争いに食い込むような戦いを期待したい。