トリノFC情報局

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ユリッチ・トリノ、『攻撃の要』は意外なあの選手?

3年半ほど前アデム・リャイッチという名の天才がチームを去ってから欠けていた"クオリティ"。今季のトリノはこれを取り戻しつつある。目まぐるしく攻守が入れ替わる現代サッカーの中で、質と量の両立を求めるのは至難の業。しかしながら指揮官イヴァン・ユリッチはその難問に取り組み、ピッチでその答えを見せ始めている

 

さて今回は当方トリノFC情報局が最も苦手とし敬遠してきたジャンル「戦術分析」にチャレンジしていこうと思う。というのも実は今季のトリノ、特定のエリア限定ではあるがまるでフットサルのようなアタックを繰り出していたりするから面白いのである。その"フットサルのような攻撃"において中心的な役割を果たしているのは一体誰なのか?得点に直結した具体的なシーンはあるのか?その点も含め調査していこうと思っている。なお、今回の記事を執筆するにあたりデータを引用したサイトは一律Whoscored.comである事を記載しておく。

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25試合を消化したトリノのここまでのゴール数は32セリエAでは13番目の数字となっており正直なところ芳しくない。明確に結果が出ているわけではないものの、全シュートのうち「ゴールマウスから半径5メートル以内でのフィニッシュ」に関しては全シュートのうち10%という数字を出しており、こちらはセリエAでもローマ(12%)に次いで2番目に多い数字である。ここまでのリーグ戦で55ゴールと最多得点を記録しているインテルと同率なのだから、トリノがここまでいかにゴール前での決定機をフイにして来たかという事実も明確になったわけだが、ここはアンドレア・ベロッティの戦線復帰により向上が期待されると見て良いだろう。

 

ゴールの近くでのフィニッシュの割合はチャンスクリエイト数に比例するはずだ。つまりトリノは比較的しっかりと相手守備陣をファイナルサードまで押しやってからシュートまで行けているという事になる。しかしその崩しのパターンはどのようなものなのだろうか?崩しの起点となっているのはどのエリアだろうか?

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各チームが「どのサイドから主に攻撃しているか」を表すデータ

トリノの場合左サイドからの攻撃がセリエAで7番目に多い。上のデータを見ると僅差ではあるが左右どちらかと言えば左からの崩しが多いことが分かる。そう、"フットサルのような攻撃"が多く観測されるのがまさにこのサイドだ。

 

フットサルでは基礎中の基礎的な戦術ではあるが、"ヘドンド(旋回)"と呼ばれる攻撃のパターンがある。トリノは左サイドからこれを仕掛ける事が多い。ユリッチの師匠ガスペリーニ率いるアタランタもやっている事ではあるが、ボールをシンプルに叩いて縦に抜ける→受けた選手が入れ替わり降りて来るを複数の選手で繰り返し、文字通り"旋回"する事で相手ディフェンスにマークのズレを生じさせフリーでボールを受けられる選手を生み出す。トリノは両方のサイドでこれを仕掛けてはいるがチームとして左サイドからを好む理由は1人の選手の存在にある。

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第26節ユヴェントス戦90分の平均ポジションマップ

上の図を見れば分かる通り、3バックの右で出場した26番コフィ・ジジに比べ左で出場した13番リカルド・ロドリゲスは非常に高い位置でのプレーが多かった。なんと1試合を通して大半の時間を敵陣で過ごしている。そう、つまり先ほど述べた"ヘドンド"の起点となっているのはズバリ、リカルド・ロドリゲスなのだ。ショートパスでのビルドアップを好むユリッチ戦術において攻撃はセンターバックから開始される事が多いのだが、そのスイッチ役を担うのがこのスイス代表ディフェンダーなのである。

f:id:sft1995:20220226000757j:plain一時は戦力外候補とまで言われた男が、ユリッチの下では欠かせない存在に

本職左サイドバックの彼がこのポジションで起用されている理由もここにある。サイドバックならではの機を見たクロスも選択肢に取り入れる事が可能となる上、高いキック精度を持つ彼が最終ラインにいる事で当然プレス回避も楽になる。上の図で言えば27番メルギム・ヴォイヴォダ、14番ヨシップ・ブレカロらに預けたショートパスを起点として織りなす流動的な入れ替わりで、時にコーナーフラッグ付近まで走り抜ける事もある。実際この試合での同点ゴールもヘドンドを得意とする左サイドを起点として生まれており、ユヴェントス相手にも十分に武器として通用していた。

 

ところで、ロドリゲス不在時のトリノは戦い方を変えるのだろうか?答えはNo。同じくレフティセンターバックアレッサンドロ・ブオンジョルノが控えているからだ。実際に今季ロドリゲス欠場時はブオンジョルノが代役を務め、若いが故の荒削りさを見せつつも役割を全うしている。そんな彼が「俺にもできるんだぞ!」という事を示した第15節エンポリ戦でのゴールシーンをご覧頂こう。ちなみに筆者は今季のゴールの中で1番好きな得点シーンだ。

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この直後ドリブルでカットインしたピアツァがそのままゴールを決めたというシーンである。ブオンジョルノのブロックがファウルかどうかという議論は置いといて、このゴールはブオンジョルノ、アイナ、ピアツァの3人によるヘドンドから生まれた、まさに理想的な形だ。そう、ブオンジョルノにも"ロドリゲスロール"は可能であり、同様にヴォイヴォダやブレカロがいなくともアイナやピアツァが同じ役割をこなす事が今のトリノには出来るのである。

【まとめ】トリノの攻撃の肝は左右のセンターバック

いかがだっただろうか?初の戦術分析となったためあまり自信は無いのだが、トリノ左右のセンターバックを起点とした”ヘドンド”を取り入れた崩しをメインウェポンとして装備している事はお分かり頂けたと思う。5レーン理論におけるハーフスペースというワードは現代サッカーにおいてもはや珍しくもないものだが、ユリッチのトリノはまさにこのレーンをどう使うかに重点を置いているのである。右のコフィ・ジジダヴィド・ズィマ、左のリカルド・ロドリゲスアレッサンドロ・ブオンジョルノ。彼らのレギュラー争いも今後のトリノを見ていく上で注目ポイントとなりそうだ。

ブレカロ :「僕の将来は...」

今季からトリノに加わり、セリエA初挑戦ながらも左シャドーのポジションで欠かせない主力としての地位を確立させているヨシップ・ブレカロ。今季ここまで19試合に出場しチームトップの6ゴールを挙げているブレカロは、テクニックとスピードを兼備したそのプレースタイルで早くもトリノのサポーター達を虜にしている。そんなブレカロが24日、Gazzetta dello Sportのインタビューに応えた。

トリノとの契約と移籍の決断について

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トリノで好調を維持するブレカロ

 

夏の移籍市場最終日は大変だった。僕はドイツにいてトリノ行きの飛行機を待っていたんだけど、フライトに遅延が発生していたんだ。トリノに到着したのはなんとメルカートが閉まる15分前だったんだ!とても貴重な経験をしたよ(笑)あの日の事はよく覚えている。飛行機が離陸するのが待ちきれなかったね。

 

ブンデスリーガでは5年プレーしたけど、僕は新しい挑戦に飢えていた。ユリッチの率いるトリノで多くを学ぶ事が出来るという確信があったよ。僕の周りにはイタリア行きに反対する人たちもいたけど、今ではこの決断が正しかった事をピッチで示せていると思う。「チャンピオンズリーグの舞台を手放すのかい?」って言われたりもしたけど、それでも僕はトーロを望んだ。素晴らしい決断をしたと思うよ。父にセリエAクロアチアナショナルチーム両方でのプレーを見せられている事がとても幸せだ。僕たち親子にとってここセリエAは夢の舞台だったのだからね。

 

トリノの街について

すごく気に入っているよ。既に故郷のようにも感じている。妻と娘と暮らしているんだけど、家族とチェントロでランチを食べて、それから散歩をするのが好きだ。トリノの人々はとても親切だと思う。道でティフォージと出会っても、僕らのプライベートを尊重してあまり声を掛けないでくれるんだ。スペルガにはまだ行った事がないけど、すぐにでも行きたい。当然ながらグランデ・トリノの歴史や偉業を知っているからね。

 

将来について

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ヴォルフスブルクから加入したブレカロの現行契約形態は€1000万の買取オプション付ローン

 

希望が通るならここに残りたい。僕の将来はトーロにあるんだ。この街は僕を幸せにしてくれた。ここトリノでは僕のキャリアの中で最も美しい時間が流れているんだよ。僕個人の今季の成績としては今のところ正しい道にいると思う。ゴールは6つ決めているけど、アシストも増やしていきたいね。今季の僕はあらゆる面で成長している実感がある。このまま行けば最高のシーズンになるだろう。これが始まりに過ぎない事を願っているよ。

 

指揮官イヴァン・ユリッチについて

彼は僕がサッカーを知り、試合を読む手助けをしてくれる。サッカーは情熱とか勢いだけではプレー出来ない。適切なタイミングで適切なポジション取りをする。そのためにはここぞという瞬間を見極め、我慢する必要があるんだ。ユリッチとは素晴らしい関係を築いている。彼が僕に何を求めているかは理解しているよ。

 

 

評価を高めるブレーメル。契約延長の意図とは?

新生トリノの3バックにおいて中央でプレーしディフェンスリーダーとして今季評価を高めているグレイソン・ブレーメル。現時点で欧州5大リーグ全クラブのセンターバックの中でも空中戦勝数、インターセプト成功数ともにベスト5に入るなど驚異的なパフォーマンスを披露する彼は、セリエAのみならず欧州中にその名を轟かせている。

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加入当時の指揮官ワルテル・マッツァーリは「私が育てた!」とコメントしているが実際その通りではある

ブレーメルがトリノに加わったのは2018年の7月。センターバックの補強を画策していたトリノは、当時サントスに所属していたルーカス・ヴェリッシモ(現ベンフィカ)をトップターゲットとして狙っていたが最後までクラブ間合意を見出せず、当時のジャンルーカ・ペトラーキSDが彼の代替案としてアトレチコ・ミネイロから€500万の移籍金で連れて来たのがこのブレーメルだ。加入直後からブラジル代表監督が招集に興味を示すなど将来が約束された選手として加入したブレーメルは、アンフィールドで行われたプレシーズンマッチリヴァプール戦において対峙したサディオ・マネを完封するなど、欧州初挑戦ながらも即戦力として計算できる選手である事を証明。セリエAでも第1節ローマ戦から途中出場を果たし、以降準レギュラー的な立場でセリエAの水にみるみる馴染んでいった。その後監督交代が何度も起きたトリノにおいて居場所を失う事なく順調に成長を遂げたブレーメルは、ニコラ・エンクルの退団により今季からディフェンスリーダーに。アグレッシブな守備戦術を敷くイヴァン・ユリッチの監督就任によるシナジーも相まって現在に至る。

 

 

プレースタイル

 

彼のストロングポイントはなんと言っても強靭なフィジカルを活かした積極果敢なハードチャージと鋭い出足から繰り出されるインターセプト。マンツーマンディフェンスにおいては必要不可欠な能力ではあるが、試合後帰宅時まで一緒について行かんばかりに相手センターフォワードを執拗に追っかけ回すマンマークの粘り強さはストーカーの資質すら感じさせる。セットプレー時には得点源としても機能し、トリノでのセリエA出場100試合のうち12ゴールをセットプレーから記録している。

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ちなみにブレーメルと同時期にトリノに加入した"フォワード"のシモーネ・ザザは101試合出場20得点(^ω^)

 

敢えてブレーメルの弱点に触れるならば、ビルドアップ時の組み立ての丁寧さだろう。前任者エンクルはグラウンダーの速いボールを散らす能力に秀でていたが、ブレーメルの縦パスには言うなれば「愛がない」事が多い。トラップの難しいイレギュラーなボールを蹴り出す事が散見されるのだ。受け手となるヨシップ・ブレカロをはじめとするアタッカー陣のボールスキルでカバーされているためあまり目立たないが、セレソン選出を目標としていくならここが改善すべき点となるだろう。

 

人気銘柄となったブレーメルの将来は?

 

先日トリノとの契約を2024年まで延長したブレーメル。元々の契約は来年までだったのだから、正直なところこの意図としてはクラブに移籍金を残すためとしての意味合いが強い。つまりクラブも彼の退団をある程度覚悟しているという事だ。

 

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噂される主な移籍先候補

インテル デ・フライの後釜候補として興味を示しているとの報道

ミラン 頭数の少ないセンターバックの補強候補としてリストアップ

ユヴェントス マンドラーゴラの保有権を交渉に利用する意向との噂だが絶対売らねえ

リヴァプール 4年前の対戦時から注目していた可能性大

バイエルン 既にトリノ接触したとの噂も

トッテナム イタリア方面に強い強化部の存在が影響か

 

トリノとしては移籍金約€4000万を要求する姿勢を見せており、今後の動向が注目される。本人も現在はトリノでのプレーに集中したいと語っており、退団となる運命だとしてもいちサポーターとしては彼のプレーを今後も楽しみたいところだ。

【国内屈指の有望株を確保!】冬の移籍市場まとめ

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指揮官イヴァン・ユリッチの下、なかなかのパフォーマンスを見せ一桁順位でのフィニッシュも現実的な目標となっている今季のトリノ。最終日での駆け込み補強が目立った夏の市場同様、今回のカルチョメルカートでも比較的大きな動きを見せた。高額年俸を受け取りながらも余剰人員と化した何人かの選手達を放出する事で人件費の削減に成功し、さらには若く将来性のある才能を迎え入れる事にも成功。トリノは毎年冬の市場ではほとんど動かないが、今回のメルカートカイロ政権発足後最も補強に投資した冬のウィンドウとなった。

 

早速だが今回クラブにやって来た選手・クラブを去った選手について見ていこう。

 

IN

DF

ハメド・ファレス ← ラツィオ(買取オプション付ローン。オプション料€600万)

 

MF

サムエレ・リッチ ← エンポリ(買取義務付ローン。移籍金€800万+ボーナス€200万)

 

FW

デンバ・セック ← SPAL(完全移籍。移籍金€400万)

ピエトロ・ペッレグリ ← モナコ(買取オプション付ローン。オプション料€650万)

 

OUT

GK

ラズヴァン・サーヴァ → クルージュ(完全移籍。移籍金不明)

 

MF

ダニエレ・バゼッリ → カリアリ(完全移籍。移籍金不明)

トマス・リンコンサンプドリア(ドライローンだが契約残り半年のため実質フリーでの退団)

ベン・ラシヌ・コネ → クロトーネ(ドライローン)

 

FW

シモーネ・ヴェルディサレルニターナ(ドライローン)

 

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最も大きなサプライズはやはりイタリア屈指の有望株であるサムエレ・リッチの獲得だろう。国内外の列強たちからの関心も報じられていた中、エンポリにいち早く接触を図ったトリノが電光石火の動きで釣り上げる事に成功した格好だ。本日2月22日時点でまだ公式戦デビューは果たしていないが、古巣エンポリとは真逆と言ってもいい戦術で戦うトリノへの適応に時間が掛かるのは当然。しかし前節ユヴェントス戦でロランド・マンドラーゴラの累積警告が4枚に達したため、次節カリアリ戦でスタメンデビューを飾る可能性があるとの事だ。ユリッチの下で更なる進化を遂げるリッチのプレーに注目していきたい。

 

その他にはモハメド・ファレス、デンバ・セック、ピエトロ・ペッレグリらがトリノに加入。ファレスに関してはトリノが数年前から目を付けておりようやく入団の運びとなったが、加入直後の練習で前十字靭帯を損傷する大怪我を負いトリノで一試合も試合に出る事なくローンバックされる事が濃厚となってしまった。ローン延長という道なら残留の可能性はあるかもしれないが、非常に残念ながら返却が確実だ。

 

セックは昨季ボローニャ移籍が決まりかけていた経緯もあり、他にもセリエAのいくつかのクラブから関心を寄せられていた右ウインガーレフティで、長い手足を活かしたトリッキーな仕掛けでゴールに迫るプレーを得意とする21歳のセネガル人アタッカーだ。彼を連れて来たダヴィデ・ヴァニャーティSDについては「SPAL時代スパイクを買ってくれた恩人」と語っており、その恩に報いる活躍が期待される。

 

最後はジェノア時代ユリッチが自らの手でデビューさせた"元神童"ピエトロ・ペッレグリ。若くして育成の名門モナコでのプレーを選んだものの度重なる負傷に苦しみ完全に伸び悩んでいる印象だが、トリノ恩師ユリッチが指揮官を務め父マルコがチームマネジャーとして在籍するクラブ。さらにはペッレグリがプロデビューを飾った試合はなんとスタディオ・オリンピコ・グランデ・トリノでのトリノ(ちなみにトマス・リンコンとの交代でピッチに入った)と来ている。再起を図る環境は整っているため、心機一転頑張って欲しいところだ。

 

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クラブを去った選手については基本的に戦力外同然の扱いだった選手達だが、ダニエレ・バゼッリやトマス・リンコンなどここ数年のトリノの中盤を支えた元主力の退団はやはり寂しいものがある。その他にもユリッチとの対立が囁かれたヴェルディや母国復帰を選んだ下部組織上がりのサーヴァ、セリエBでの武者修行に旅立ったコネなどがクラブを去ったが、戦力的なダメージはほぼゼロ。メルカート閉幕後デニス・プラートが今季絶望となる怪我を負ってしまったため即戦力となるトレクァルティスタの補強もしておきたかったところだが、こればかりは結果論なので仕方がない。放出による移籍金収入はほとんど無いに等しいが、冒頭にも記した通りチーム内でも上位となる高額年俸を受け取っていた選手達(バゼッリ、リンコンがそれぞれ€140万。ヴェルディが€170万)の放出により人件費の節減に成功したのは大きな成果だろう。

 

冬のカイロにしては珍しく積極的な投資を行なった今回のメルカート。今後半年でチームにどのような影響をもたらせるかに注目だ。

 

 

21/22シーズンここまでの振り返りと展望

約3分の1が経過した今季のセリエA。第12節を終えトリノはここまで4勝2分6敗という成績で12位につけている状況だ。ほとんど何もうまくいかなかった昨季はこの時点で1勝3分8敗で19位に沈んでいたのだから、少なくとも今のところは残留争いに巻き込まれそうな気配は無いと見て良さそうだ。

 

イヴァン・ユリッチが新監督に就任した今季、トリノはハイプレス&ショートカウンターを主な戦い方として採用。アグレッシブかつ貪欲にボールを奪い素早くゴールに迫るその戦術は早くもティフォージの心を掴み、ユリッチの評価はトリノの街ではうなぎ登り。ユリッチも話していた通りこのチームは未だ発展途上であるが、ここまでのチームに対する評価としては「ここからの上昇に期待が持てる」と自信を持って言えるだろう。

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ヒエラルキーの変化

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ユリッチに発破を掛けられたダヴィデ・ヴァニャーティSDは、夏のメルカートで積極的な補強を敢行。これによりチーム内でのヒエラルキーには想像以上に大きな変化が訪れている。新加入組は軒並み期待通りまたはそれ以上の活躍を見せ、これまで不動のレギュラーだった選手達をベンチに追いやった。特筆すべきはトンマーゾ・ポベガヨシップ・ブレカロの2人。前者はユリッチによる高インテンシティなサッカーにばっちりフィットしついに先日ロベルト・マンチーニからお呼びが掛かった。現行契約はミランからのドライローンだが早くもクラブは完全移籍での獲得に向け動いているとの報道も出ており、色んな意味で話題をさらっている。後者は同胞である監督の下左シャドーの役割を与えられ躍動。このまま行けば€1000万に設定されている買取オプションの行使は確実だろう。

 

序列が大きく変化した理由はこれだけではない。今までトリノに所属しながらもその実力を燻らせ続けていた何人かの選手達が、ユリッチの就任に伴い生まれ変わったのも大きく影響している。ヴァンヤ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチリカルド・ロドリゲスコフィ・ジジサシャ・ルキッチオラ・アイナなどがパフォーマンスを大きく向上させ、レギュラーの座を手に。特にミリンコヴィッチ=サヴィッチはシーズン前、筆者を含むほとんどのティフォージに懐疑的な視線を向けられながらも試合を追うごとに成長。兄セルゲイの待つセルビア代表にもついに初招集されている。

 

指揮官を苦しめる主力の負傷離脱

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インテンシティの高いサッカーはゲームを優位に進めやすいが、それだけ代償も大きい。ユリッチの練習は「試合の方が楽」との感想が選手から出るほど超ハードな事で知られており、それも影響してか今季のトリノは常にスタメンクラスの誰かが負傷のため欠場。未だにベストメンバーが揃った事は一度も無い状態だ。そして先月ついに事件が発生。負傷者の多さだけでなく彼らの復帰に長い時間が掛かり過ぎている状況に激怒したユリッチは0-1で敗れた第7節のトリノデルビー後、クラブのメディカル部門の仕事ぶりを痛烈批判。これを受けたクラブドクターのパオロ・ミナーフラが職を辞すという事態にまで発展している。

これに追い討ちを掛けているのが代表ウィーク。トリノは代表に招集される選手が比較的多く、そのほとんどがナショナルチームでも多くのプレータイムを与えられている。今回もアントニオ・サナブリアがコンディションを落とした状態でトリノに戻って来た上、リカルド・ロドリゲスも負傷。後者に関しては年内復帰は難しいとの報道も出ており、負傷者たちのコンディション管理や再発防止などが今後の課題となってくるだろう。

 

クラブを去る可能性のある選手達

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欧州争いに食い込んだ3シーズン前のトリノで不動の主力であったアルマンド・イッツォダニエレ・バゼッリトマス・リンコン、そしてトリノ史上最高額プレーヤーのシモーネ・ヴェルディトリノでの年平均ゴール数がたったの4であるシモーネ・ザザの5名はチームの成長とは裏腹に不遇の時を過ごしている。リンコンとバゼッリは新戦力の到着により普通に序列が下がった格好だが、自身の負傷離脱中にポジションを奪われたイッツォに関してはやや不運と言うべきか。ヴェルディやザザはユリッチが就任する以前から余剰戦力として見なされていた上、強力なライバルの加入がトドメを刺した形だ。

 

上記5名は恐らく冬のメルカートで放出リストに名前が記載される事になるが、なかなかチャンスの与えられないメルギム・ヴォイヴォダもここに加えなければならないかもしれない。ユリッチは右ウイングバックのポジションをウィルフリード・シンゴに一任しており、ヴォイヴォダはスタメン出場が今季は一度も無い状況。これに本人が不満を募らせる可能性も低くはないため、移籍の可能性も出てきそうだ。

 

アフリカ・ネーションズカップの影響

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来年1月に開催されるアフリカ・ネーションズカップ。今のところここにオラ・アイナウィルフリード・シンゴが参加する可能性がある。そうなればトリノは新年早々約1ヶ月の間、両ウイングバックのレギュラーを同時に失う事になってしまう。シンゴに関しては今年コートジボワール代表デビューを飾ったばかりという事もあり招集される可能性は五分五分だが、ナイジェリア代表常連のアイナは確実に呼ばれるはず。左サイドを1ヶ月間怪我がちなクリスティアン・アンサルディ1人で凌げるかどうかは正直疑問符が付くため、冬のメルカートでは補強が必要になるかもしれない。右はシンゴが招集された場合代役となるであろうヴォイヴォダのトリノ残留が確実になるが、場合によってはこちらも入れ替わりが起こり得ると言えそうだ。

 

【ラツィオ戦前日会見】ユリッチ :「自分たちの試合を」

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ー直近の両チームのパフォーマンスから見て、今節はどんな試合になるでしょうか?

 

ユリッチ

ミラン戦ではとても苦しんでいたが、カリアリ戦でのラツィオはとても良かったね。結果はドローだったが、非常に攻撃的で多くのシュートを放っていた。我々はいつも通りの準備をしてこの試合へ臨むよ”

 

ラツィオが持つクオリティを踏まえて、前節とスタメンを変更する予定はありますか?

“前節も相手に合わせて5人を入れ替えた。この試合に向けてもそうするつもりだよ。サッスオーロ戦と比べプラートを欠く事になるが、その代わりにヴェルディが復帰した。選択肢の数としては同じだね”

 

ーこの試合へのマインドは?落ち着いてますか?

“Noだね。私はまだトリノの選手たちを知る段階にある。選手個々の状態を見極める必要があるよ。レッジョ・エミリアでは素晴らしい試合をしたと思うし、これを続けたい。ラツィオが絶対的にハイレベルなスカッドを持つ素晴らしいチームである事は明らかだが、我々は自分たちの試合をするだけ。非常に重要な試合になるだろう”

 

ーピアツァの状態は?

“ピアツァは若干だが問題を抱えていた。とても小さいものだがね。個人トレーニングで調整しているところだが、今のところ状態は良さそうだよ。試合前に最後のテストを行い、起用できるか判断するつもりだ”

 

ーイッツォとベロッティについても教えて下さい。

“イッツォは3週間前に負傷離脱し、まだ復帰は出来ない。ベロッティもまだ痛みを感じており、走る事も出来ない。我々も少し心配しているよ。復帰時期についても正確な予測は不可能だ。あとはメディコに聞いてくれ”

 

ーベロッティは今のところ今季いっぱいの契約になっていますが、それがモチベーションに影響しているという事はありますか?

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“それはない。監督として、彼の契約状況はむしろアドバンテージだ。彼はモチベーションに満ち溢れており、チームに貢献出来ない状況にもどかしさを感じているよ。1人の人間として、彼は強い闘争心を持つ男だ。彼のフィジカルが早く良い状態に戻る事を祈ろうじゃないか”

 

サッスオーロ戦についての感想は?

“良い試合をしたね。しかしこのレベルを継続出来るかどうかが問題だ。間違いなく良い試合だったが、今節はまた別の話だ”

 

ー数年間、トリノではこんなにもティフォージが希望を持てた事はありませんでした。2連勝という結果に関係なく、私達は今までと異なるスピリットをチームに感じていますが、監督はどうお考えですか?

“我々はまだ始動したばかりだ。3つの良い試合と1つの悪い試合があったね。ティフォージが満足している状況は、選手たちにとっても良い要素だ。ブーイングよりも拍手の方が良いに決まっているからね。この状況を持続させなければならないし、この熱意にうまく同調していきたい。しかしチームの出来栄えに評価を下すのは時期尚早だ。自分たちを良く理解し地に足を着け、仕事に集中していくよ”

 

ー今節は、今後の事も見越して布陣を選びますか?

“いや、例えばサスペンションにリーチが掛かっている選手がいようがいなかろうが、私は次にやってくる試合の事だけを考えている。試合が終わったらその試合についての分析と選手の状態確認を行い、次の試合に備えているんだ。チームにとって重要な選手というのはもちろんいるが、その選手を欠いたとしても同じような競争力を保てるチーム作りを目指している”

 

ー左ウイングバックにはアンサルディとアイナのどちらを好みますか?

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“状況によって変わるね。アンサルディは疑いようもなくトッププレーヤーだが、アイナには素晴らしいスタミナがある。時々消えてしまう事もあるが、そんな中でもしっかりとタスクをこなしているんだ。これは簡単な事ではないよ。インテンシティについてもセリエAの数多くの選手たちを遥かに凌駕している選手だ”

 

ーマンドラーゴラとポベガはメディアーノの位置で共演可能ですか?

“もちろんだ。我々はそのポジションに多すぎるくらい沢山の選手を抱えているが、そんな中でもこの2人は共にプレーする事が出来る。どちらも左利きだが、特に問題はない”

 

ーポベガは前節見事な試合をしたが、途中出場だったマンドラーゴラもアシストを記録している。どちらを起用するかはもう決めていますか?

“まだだよ。レッジョ・エミリアでは2人とも良いプレーを見せたしね。ポベガは試合をうまく見極めてプレーしていたし、マンドラーゴラは同じく途中から入ったピアツァ、アンサルディらとの連携で得点に絡んだ”

 

ー今のトリノはあなたがこれまでに指揮した中で最強のチームでしょうか?

“Noだ”

 

ーではどのチームが最強だった?

“私が指揮したジェノアは組織的に見て最も素晴らしいチームだったね。経験豊富な選手が多くいて、守備力が高かった。最初の半年はとてもうまくやっていたが、その後多くの選手がチームを去ってしまった。今のトリノは成長段階にある。採点するなら5だね。これを7や8に上げていける力はあると思う。しかし、苦しんだ直近2シーズンより悪くなってしまう可能性だってまだあると思っている”

 

ー今季のトリノはどんな可能性を秘めているのでしょう?

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“繰り返すが、点数としてはまだ5の段階。それ以上では絶対に無いが、共に成長していけるはずだ。取り組むべき仕事は沢山あるがね。選手たちは自分たちに何が出来て何が出来ないのかを既に示している。試合から試合へ、練習から練習へと繰り返していくべきだ。シーズンの結末は負傷者などの要因に依存する部分もあるだろう”

 

ーブレカロはプレースタイル的に誰と合いそうですか?

“プラートとリネッティは比較的後ろの方でプレーする事を好む一方、ピアツァと彼はウインガーとして非常に似た特徴を持っている。ブレカロはラスト15メートルくらいから非常に良いシュートを撃てる力があるね”

 

ーブレーメルは替えの効かない選手ですが、彼の代役を務められる選手はいますか?

“ブレーメルは足首に問題を抱えていたから、その点についてまだ少し管理が必要だ。我々は彼がさらに成長する事を願っているが、現段階においても間違いなく重要な選手と言えるね。ズィマには彼の代役をこなせるポテンシャルがあると思うよ。フィレンツェでのブオンジョルノのパフォーマンスも素晴らしかったね。この2人にはクオリティがあり、我々は彼らの成長を促していく必要がある。まだまだこれからだよ”

 

ーバゼッリとリンコンはまだあなたのプランに入っていますか?

“今のところ我々は中盤に2人の選手を置く布陣を採用しており、自信を与えるためにも何人かの選手を継続して起用している。全員を満足させる事は出来ないよ。しかしカンピオナートはまだまだ長い。どうなるか見てみようじゃないか”

【新加入選手会見⑦】ブレカロ :「トリノのプロジェクトに魅力を感じた」

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ヴァニャーティSD

“ヨシップは我々の最後の補強となったが、数ヶ月ほど前から彼の事は調査していた。素晴らしいパーソナリティと個性を持つ選手で、一対一に非常に強い。ピッチでそれを示せる選手だね。まだ23歳と若いが既に経験豊富で、代表チームで30試合の出場経験がある。ブンデスリーガクロアチアリーグ、ヨーロッパリーグなどでも数多くの試合をこなしてきた。彼が我々のプロジェクトの一部となってくれた事をとても嬉しく思っているよ。才能溢れる選手で、トリノに多大な貢献を果たしてくれるだろう”

 

ー新しいチームはどう?

ブレカロ

“皆さんこんにちは(イタリア語で)。イタリア語はもう勉強し始めているんだ。ユリッチ監督も僕と同じクロアチア人だけど、彼はいつもイタリア語を話しているからね。ここに来られて嬉しいよ。トリノに来てまだ2週間くらいだけど、とても幸せだ。チームが目標を達成するための力になりたい”

 

ーデビュー戦はどんな試合にしたい?

※この記者会見は第3節サレルニターナ戦の後に行われた

“僕は攻撃だけでなくチームのためなら守備での貢献も厭わないけど、チャンスを作りアシストを記録しゴールを決める。そうする事でみんなをハッピーにしたいね”

 

ー君にとってセリエAでの最初のシーズンになるけど、君自身の目標は何?ユリッチ監督は君に何を求めてる?

セリエAは素晴らしいチームが揃う偉大なリーグ。そんな場所でプレー出来る事をとても嬉しく思っているよ。トリノのプロジェクトは特別なもので、僕のキャリアにとっても大きな一歩だ。監督が僕に求めるものは監督が知っている事。何をすべきかは理解しているつもりだ。ハードワークしてチームを助けたい”

 

ー君の最もやりやすいポジションはどこ?

“トレクァルティスタ。左右はどちらでも気にしない。ユリッチ監督の布陣は僕に適したフォーメーションだね。戦術理解をもう少し深める必要はあるけど、必ずチームの力になれると思う”

 

ーイタリアのサッカーの特徴はなんだと思う?

“戦術がモノを言う印象だ。僕もうまく適合出来ると思うよ”

 

ーユリッチ監督は以前、インタビューで「クロアチアの選手はハングリーで野心的だ」とコメントした事がある。君もそうなのかな?

“そうだね。正しいと思うよ。ユリッチ監督は「全てのトレーニングと試合で100%を出せる選手以外必要ない」と明言していた。僕は全てを出し切る準備が出来ている”

 

トリノに来る前、ピアツァとは何か話した?一緒にピッチに立つ機会はありそう?

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“ここに来る前話をしたのは監督とだけだよ。ピアツァとは17歳の時ディナモ・ザグレブで一緒にプレーしていた。同じタイミングで彼がイタリアに、僕がドイツに移籍したんだ。僕らは素晴らしい関係を築いている。ピッチでもうまく共演できるはずさ。彼は僕がイタリアでの生活に慣れるための手助けをしてくれる。同じ街に同胞がいるというのはすごく心強いね”

 

ー君がインスパイアされた選手は誰かいる?

“参考にしている選手は沢山いるけど、誰かの真似をするよりは自分自身として大成したい。インスパイアされた選手は特にいないかな”

 

ー君には他のクラブからも関心があったはずだけど、トリノを選んだ理由は?

トリノのプロジェクトに魅力を感じたからだ。僕のキャリアにおいても大きなステップだと思っている。ポジティブな要素しか感じないよ”

 

メルカート最終日の話を聞かせて。イタリア行きのフライトが遅れていたと聞いたけど、移籍成立が間に合わない不安はあった?

“取引成立を信じてはいたけど、少しだけ不安を感じていた。どうしてもこのクラブに来たかったからね。最後の1時間でなんとか決まったから良かったよ”