トリノFC情報局

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ユリッチ・トリノ、『攻撃の要』は意外なあの選手?

3年半ほど前アデム・リャイッチという名の天才がチームを去ってから欠けていた"クオリティ"。今季のトリノはこれを取り戻しつつある。目まぐるしく攻守が入れ替わる現代サッカーの中で、質と量の両立を求めるのは至難の業。しかしながら指揮官イヴァン・ユリッチはその難問に取り組み、ピッチでその答えを見せ始めている

 

さて今回は当方トリノFC情報局が最も苦手とし敬遠してきたジャンル「戦術分析」にチャレンジしていこうと思う。というのも実は今季のトリノ、特定のエリア限定ではあるがまるでフットサルのようなアタックを繰り出していたりするから面白いのである。その"フットサルのような攻撃"において中心的な役割を果たしているのは一体誰なのか?得点に直結した具体的なシーンはあるのか?その点も含め調査していこうと思っている。なお、今回の記事を執筆するにあたりデータを引用したサイトは一律Whoscored.comである事を記載しておく。

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25試合を消化したトリノのここまでのゴール数は32セリエAでは13番目の数字となっており正直なところ芳しくない。明確に結果が出ているわけではないものの、全シュートのうち「ゴールマウスから半径5メートル以内でのフィニッシュ」に関しては全シュートのうち10%という数字を出しており、こちらはセリエAでもローマ(12%)に次いで2番目に多い数字である。ここまでのリーグ戦で55ゴールと最多得点を記録しているインテルと同率なのだから、トリノがここまでいかにゴール前での決定機をフイにして来たかという事実も明確になったわけだが、ここはアンドレア・ベロッティの戦線復帰により向上が期待されると見て良いだろう。

 

ゴールの近くでのフィニッシュの割合はチャンスクリエイト数に比例するはずだ。つまりトリノは比較的しっかりと相手守備陣をファイナルサードまで押しやってからシュートまで行けているという事になる。しかしその崩しのパターンはどのようなものなのだろうか?崩しの起点となっているのはどのエリアだろうか?

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各チームが「どのサイドから主に攻撃しているか」を表すデータ

トリノの場合左サイドからの攻撃がセリエAで7番目に多い。上のデータを見ると僅差ではあるが左右どちらかと言えば左からの崩しが多いことが分かる。そう、"フットサルのような攻撃"が多く観測されるのがまさにこのサイドだ。

 

フットサルでは基礎中の基礎的な戦術ではあるが、"ヘドンド(旋回)"と呼ばれる攻撃のパターンがある。トリノは左サイドからこれを仕掛ける事が多い。ユリッチの師匠ガスペリーニ率いるアタランタもやっている事ではあるが、ボールをシンプルに叩いて縦に抜ける→受けた選手が入れ替わり降りて来るを複数の選手で繰り返し、文字通り"旋回"する事で相手ディフェンスにマークのズレを生じさせフリーでボールを受けられる選手を生み出す。トリノは両方のサイドでこれを仕掛けてはいるがチームとして左サイドからを好む理由は1人の選手の存在にある。

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第26節ユヴェントス戦90分の平均ポジションマップ

上の図を見れば分かる通り、3バックの右で出場した26番コフィ・ジジに比べ左で出場した13番リカルド・ロドリゲスは非常に高い位置でのプレーが多かった。なんと1試合を通して大半の時間を敵陣で過ごしている。そう、つまり先ほど述べた"ヘドンド"の起点となっているのはズバリ、リカルド・ロドリゲスなのだ。ショートパスでのビルドアップを好むユリッチ戦術において攻撃はセンターバックから開始される事が多いのだが、そのスイッチ役を担うのがこのスイス代表ディフェンダーなのである。

f:id:sft1995:20220226000757j:plain一時は戦力外候補とまで言われた男が、ユリッチの下では欠かせない存在に

本職左サイドバックの彼がこのポジションで起用されている理由もここにある。サイドバックならではの機を見たクロスも選択肢に取り入れる事が可能となる上、高いキック精度を持つ彼が最終ラインにいる事で当然プレス回避も楽になる。上の図で言えば27番メルギム・ヴォイヴォダ、14番ヨシップ・ブレカロらに預けたショートパスを起点として織りなす流動的な入れ替わりで、時にコーナーフラッグ付近まで走り抜ける事もある。実際この試合での同点ゴールもヘドンドを得意とする左サイドを起点として生まれており、ユヴェントス相手にも十分に武器として通用していた。

 

ところで、ロドリゲス不在時のトリノは戦い方を変えるのだろうか?答えはNo。同じくレフティセンターバックアレッサンドロ・ブオンジョルノが控えているからだ。実際に今季ロドリゲス欠場時はブオンジョルノが代役を務め、若いが故の荒削りさを見せつつも役割を全うしている。そんな彼が「俺にもできるんだぞ!」という事を示した第15節エンポリ戦でのゴールシーンをご覧頂こう。ちなみに筆者は今季のゴールの中で1番好きな得点シーンだ。

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この直後ドリブルでカットインしたピアツァがそのままゴールを決めたというシーンである。ブオンジョルノのブロックがファウルかどうかという議論は置いといて、このゴールはブオンジョルノ、アイナ、ピアツァの3人によるヘドンドから生まれた、まさに理想的な形だ。そう、ブオンジョルノにも"ロドリゲスロール"は可能であり、同様にヴォイヴォダやブレカロがいなくともアイナやピアツァが同じ役割をこなす事が今のトリノには出来るのである。

【まとめ】トリノの攻撃の肝は左右のセンターバック

いかがだっただろうか?初の戦術分析となったためあまり自信は無いのだが、トリノ左右のセンターバックを起点とした”ヘドンド”を取り入れた崩しをメインウェポンとして装備している事はお分かり頂けたと思う。5レーン理論におけるハーフスペースというワードは現代サッカーにおいてもはや珍しくもないものだが、ユリッチのトリノはまさにこのレーンをどう使うかに重点を置いているのである。右のコフィ・ジジダヴィド・ズィマ、左のリカルド・ロドリゲスアレッサンドロ・ブオンジョルノ。彼らのレギュラー争いも今後のトリノを見ていく上で注目ポイントとなりそうだ。